蓼科の改築現場に、建具が入って来た。
国産杉の持つ、素直で優しい表情。
この建具のガラスは、木の葉と梨地の切り替え。
この山荘を建具屋さんは、新築と勘違いしている。
現場にやって来るタイル屋さんも、左官屋さんも。
この、「木の葉」のガラスは、以前の山荘に使われていたもの。
この、小さなガラスは、長い時間に埋もれていた記憶を呼び起こす仕掛け。
面白い事に人間の記憶は一瞬で、時空を飛ぶ。
臭覚と記憶は直結している事が簡単に解るけれど、視覚も断片的に直結したものを感じる。
日付まで遡れないけれど、
あの頃の、若き父と母。
そして自分達。
そして、記憶を巡る、その当時の何気ない日常。
何気ない過去の日常、人間の記憶には、何故、その様なものが大切にしまわれているのだろうか。
過去との会話を終えて、そして、施主さんの一言、
「この空間を、私は、記憶している。」
毎日、あちこちの現場を渡っている各職人さん達が、新築と見間違う程に変わったこの山荘は、新たな息吹を与えられ、これからも施主さんと時代を重ね、記憶を蓄積しようとしている。